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鳥取地方裁判所 昭和53年(行ウ)3号 判決 1982年6月24日

鳥取県米子市角盤町二丁目六六番地

原告

有限会社梅原商事

右代表者代表取締役

梅原正顯

右訴訟代理人支配人

松浪弘

右輔佐人

角田達朗

鳥取県米子市西町一八番地の二

被告

米子税務署長 細見真

右指定代理人

笹村将大

毛利甫

守屋憲人

白尾兆成

吉岡健

高田資生

藤井哲男

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五一年一二月二七日付で原告の

(一) 昭和四八年二月一日から昭和四九年一月三一日までの事業年度の法人税についてした更正処分(昭和五三年六月三〇日付裁決により一部取り消された後のもの)

(二) 昭和四九年二月一日から昭和五〇年一月三一日まで及び同年二月一日から昭和五一年一月三一日までの各事業年度の法人税についてした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(いずれも昭和五三年六月三〇日付裁決により一部取り消された後のもの)

をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は青色申告書の提出承認を受けた不動産賃貸業を主たる目的とする会社である。

2  昭和四八年二月一日から昭和四九年一月三一日までの事業年度(以下第一次年度という)の法人税について原告のした確定申告と修正申告、これに対する被告の更正処分、昭和四九年二月一日から昭和五〇年一月三一日までの事業年度(以下第二次年度という)及び同年二月一日から昭和五一年一月三一日までの事業年度(以下第三次年度といい、以上の三事業年度を総称するときは本件三事業年度という)の各法人税についてした原告の確定申告、これに対する被告の更正及び過少申告加算税の賦課決定並びに右各更正、賦課決定に関する国税不服審判所長の審査裁決の経緯は、別紙第一表記載のとおりである。

3  しかし、被告がした本件三事業年度の各更正処分(いずれも裁決により一部取り消された後のもの。以下本件各更正処分という)はいずれも原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、また、本件各更正処分を前提としてなされた前記二事業年度の各賦課決定(以下本件各賦決定という)も違法である。

4  よつて、本件各更正処分及び本件各賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因12の各事実は認めるが、同3の主張は争う。

三  被告の主張

1  別紙第六表のとおり、原告の第一次年度の欠損金額は一九七万九五八〇円、第二次年度の所得金額は一六九万四七四五円、第三次年度の所得金額は一七六五万一六六九円(ただし前記裁決後の更正額によるもの)であるから、右金額の範囲内でなされた本件各更正処分は適法であり、適法な第二、三次年度の更正処分を前提としてなされた本件各賦課決定も適法である。

2  原告の三事業年度の各確定申告額は、第一次年度分申告欠損金額四八六万五九〇七円、第二次年度分申告欠損金額一五二一万七六三三円、第三次年度分零であり、これらに加算し又はそれから減算する各金額は第六表のとおりである。

(一) 同表2<1>の減価償却超過額第一次年度分二四八万四九九円、同第二次年度分一五三万三六五八円、同表2<2>の第二次年度分の建物除却損否認額一六九八万一三四三円、同表2<3>の第三次年度分の減価償却超過額二万〇一六五円について

(1) 原告は昭和四八年四月一八日津田喜誉寿(以下津田という)との間で次のとおりの売買契約を締結した。

(イ) 売主・津田、買主・原告

(ロ) 目的物件・後藤津(以下後藤という)所有の別紙物件目録第一の(一)記載の土地(以下第一土地という)及び第三者所有の土地上に存在する別紙物件目録第一の(二)記載の建物(以下第一建物という)及び第一土地についての賃借権(賃貸人後藤、賃借人津田、以下第一借地権ともいう。なお目的物件全体を第一物件ともいう)

(ハ) 代金一四八〇万円(後日一三〇〇万円に減額された)

(ニ) 建物の所有権移転時期・代金全額を支払つた日

(ホ) 建物の明渡日・同年一二月二〇日

(ヘ) 建物の収益、費用の帰属主体及び時期・所有権移転の効力の発生日までの分は売主、その翌日以降の分は買主とすること

(ト) 第一建物の借家人との立退交渉責任者・売主

(チ) 建物についての危険負担・建物の火災等による焼失のときでも、代金全額を支払うこと

(2)(イ) 右契約に基づいて、原告は昭和四八年一二月四日までに津田に対し代金一三〇〇万円を支払つた。

(ロ) 第一建物についての支出は右(1)のほかに次のとおりの借家人への立ち退き料八〇〇万円及び第一建物の取壊し費用三六万〇一〇〇円がある。すなわち

(a) 原告は第一建物の借家人の中田文義に対し昭和四八年一一月八日から同年一二月四日までの間に合計立退き料八〇〇万円を支払つた。

(b) 昭和四九年三月六日原告は株式会社松和建設(以下松和建設という)に第一建物の取壊し工事を注文し、その取壊し費用三六万〇一〇〇円を要した。

(3) 売買代金一三〇〇万円、立ち退き費用八〇〇万円及び建物取壊し費用三六万〇一〇〇円以上合計一三三六万〇一〇〇円は第一賃借権の取得価額である。

(4) 法人税取扱通達基本通達七-三-六の規定には、固定資産の取得価額について、「法人が建物等の存する土地(借地権を含む。以下七-三-六において同じ)を建物等とともに取得した場合または自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取得した場合において、その取得後おおむね一年以内に当該建物等の取壊しに着手する等、当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは、当該建物等の取壊しの時における帳簿価額及び取壊し費用の合計額(廃材等の処分によつて得た金額がある場合は、当該金額を控除した金額)は、当該土地の取得価額に算入する」と定められている。

(5) 原告は、第一建物を取得する以前又は遅くともその取得時に、同建物を取り壊し、その跡地を利用し、同地上に建物を新築する意図を有していた。これは次のような事情からみても明らかである。

(イ) 原告と津田は昭和四八年一二月三日原告が後藤に対し、第一借地権の譲渡、建物の新築の承諾の対価として更改料名義で三七五万円を支払う旨の契約を結んだ。この契約に基づいて原告は後藤に対し同日一〇〇万円、同月二四日三〇万円を支払つたほかに、昭和四九年一月三一日約束手形二通金額合計二四五万円(内訳・金額一〇〇万円、満期同年四月一五日。金額一四五万円、満期同年七月一七日)を交付した。

(ロ) 原告は津田に対し昭和四八年一二月四日までに代金全額を支払い、同月五日津田から第一建物につき同月四日の売買を原因とする所有権移転登記を受け、同月中に右建物の明渡しを受け、後藤に対し、同月分からの地代を支払つた。他方借家人中田、同田渕義夫は同年一一月分までの家賃を津田に支払つた。

(ハ)(a) 津田は右契約締結後右借家人との間で、立ち退きの合意に達しなかつた。そのため原告と津田は売買代金額を一三〇〇万円に減額することを約定した。

(b) その後原告は直接に、右借家人と立ち退き交渉をしたが、その際第一建物を取り壊した跡地に新築する建物の一部を賃貸する旨の条件を提示した。

(ニ)(a) 第一建物は明治四〇年ころ建築されたもので、老朽化し、これを改造して使用を継続するほどの経済的価値がなかつた。

(b) そこで原告は第一次年度の確定申告書添付の法人の事業概況説明書に「新規飲食ビル建築予定のもとに家屋を買収せるも、諸般の事情により建築時期が甚しく遅延したため、家賃収入が当初の予定より低下し云々」と記載した。

(6)(イ) ところが原告は売買代金一三〇〇円及び立ち退き料八〇〇万円以上合計二一〇〇万円を第一建物の取得価額とみなした。

(ロ) そのため、原告は第一次年度の確定申告に際し、右建物の減価償却費として二四八万四九九九円を損金に算入し、次いで第二次年度の確定申告に際し、同様に減価償却費として一五三万三六五八円を損金に算入した。

(ハ) 第一建物の取壊し時の帳簿価額が一六九八万一三四三円であつたことから、原告は第二次年度の確定申告に際し、右金額を建物除却損として損金に算入した。

(ニ) 更に第一建物の取壊し費用三六万〇一〇〇円を新築する建物の取得価額とみなし、第三次年度の確定申告に際し、減価償却費として二万〇一六五円を損金に算入した。

(7) しかし右(6)の減価償却費、建物除却損は本件三事業年度の損金に算入すべきではないから、第六表のとおり申告所得金額にそれぞれ加算されるべきである。

(二) 第六表2<4>の減価償却超過額第一次年度分四一万〇六六六円、同第二次年度分五九万三〇〇三円、同第三次年度分五五万九七九五円について

(1) 原告は昭和四八年六月一日佐田山栄一(以下佐田山という)から、その所有の別紙物件目録第二の(一)(二)記載の土地(以下第二の(一)(二)の土地といい、両土地を第二土地ともいう)を、また同人が代表取締役をしていた有限会社マルエイ(以下マルエイという)から同土地上に存在する同目録第二の(三)の(1)(2)記載の建物(以下第二の(1)(2)の建物又は第二建物という)とその付属設備(以下第二付属設備といい、両者を総称するときは第二建物等という。なお目的物件全体を第二物件ともいう。)を一括して代金四六〇〇万円で買い受けた。

(2)(イ) その一括された代金を第二土地と第二建物等に割り振つて、その各取得価額を算出すると、同土地が三一〇〇万円、同建物等が一五〇〇万円と認定できる。

(ロ) その認定が相当であることは次の事情からみてもわかる。

(a) 佐田山は昭和四八年分所得税の確定申告に際し、第二の土地の譲渡価額を三一〇〇万円とした。

(b) 第二建物はマルエイが昭和四一年九月に一六一八万二六五八円で取得したもので、原告への譲渡時における同建物の帳簿価額が一二六〇万三六二四円(第二付属設備を加えると一四二二万九四〇〇円)であつた。またマルエイの公表決算書には第二建物等の譲渡価額は一五〇〇万円と記載されていた。

(c) 第二土地、第二建物の昭和四八年一月一日現在の固定資産税評価額に応じて前記代金合計四六〇〇万円を案分する方法により右各物件の価額を算定すると、別紙第二表のとおり第二土地が三三一〇万六二〇〇円、第二建物が一二八九万三八〇〇円となる。

(3) ところが原告は右売買代金四六〇〇万円の内訳は、第二土地が二〇〇〇万円、第二建物が二四〇〇万円、第二付属設備が二〇〇万円であることを前提とし、各確定申告に際し、第二建物等についての減価償却費として、別紙第一〇表(一)のとおり、第一次年度分一〇八万五三三三円、第二次年度分一五五万〇九三八円、第三次年度分一四四万一九七四円をそれぞれ損金に算入した。

(4) しかし第二建物等の取得価額は一五〇〇万円であるから、これについての減価償却費は第一〇表(二)のとおり、第一次年度分六七万四六六六、第二次年度分九五万七九三五円、第三次年度分八八万二一七九円となる。したがつて原告の右(3)の申告の減価償却費のうち、許容できないところの超過部分は第一〇表(三)(第六表2<4>)のとおり第一次年度分四一万〇六六六円、第二次年度分五九万三〇〇三円、第三次年度分五五万九七九五円となり、これらは当該事業年度の損金に算入できず、第六表2<4>のとおり、申告所得金額に加算されるべきである。

(三) 第六表の2<5>の第三次年度分の営業権売却損否認額三〇〇万円、同表3<1>の第三次年度分の減価償却認容額四八万二五三〇円について

(1)(イ) 原告は昭和五〇年七月二三日、藤原秀則(以下藤原という)からその所有の別紙物件目録第三の(一)記載の土地(以下第三土地という)、及び同地上の同目録第三の(二)記載の建物(飲食業用店舗。以下第三建物という)、同建物内の什器備品(以下第三什器備品という。なお目的物件全体を第三物件とも総称する。)を代金合計五五〇万円で買い受けた。

(ロ) そして原告は同年一一月一日、坂本美智子(以下坂本という)に右土地、建物を賃貸するとともに右什器備品を一五〇万円で売り渡した。

(ハ) 第三什器備品の売買については、什器備品なる物件の売買であり、これを包括するところの営業権の売買ではない。すなわち

(a) 藤原は昭和五〇年七月一日向井保治(以下向井という)から第三物件を三五〇万円で買い受け、営業(飲食業)を開始しないまま、同月二三日原告にそれを売却した。この売買契約書中には営業権の表示はなく、また、藤原が提出した所得税確定申告書にも営業権売却の記載がなかつた。

(b) 向井は知人に短期間飲食業を経営させていたが、実際には店を開いたり開かなかつたりという経営状態であり、向井や営業を担当した同人の知人はいずれも所得税、遊興飲食税の申告をせず、また原告は藤原との売買にあたり得意先を紹介してもらつた事実もなく営業権は存在していなかつた。

(c) 原告は、坂本との売買にあたり同人に支払つた代金一五〇万円の領収書に、自ら「店舗の設備費の代金として」と記載した。

(ニ) 第三物件の取得価額の内訳について

第三物件の取得価額の内訳は第三土地九五万六〇〇〇円、第三建物三〇四万四〇〇〇円、第三什器備品一五〇万円である。右各価額は次のような事情からみても相当の金額である。

(a) 右各物件は前記のとおり転売されたものであり、その取得価額の内訳を算出するについては帳簿価額(償却残額)を基準として各取引時点ごとに売買代金合計額を案分計算する方法が合理的である。まず原告が藤原から取得した時点(昭和五〇年七月二三日)における第三什器備品の価額は、別紙第三表<4>のとおり一四七万九五〇〇円となるが、原告はその約三ケ月後にこれを使用しないまま、坂本に一五〇万円で売却したのであるから、原告はそれを一五〇万円で取得したものといえる。次に第三土地建物については、原告取得時の価額は同表<4>のとおりであるが、第三什器備品を右のとおり一五〇万円と認定したことに伴い、案分計算すると、同表<5>のとおりとなる。

(b) 第三土地について、藤原は三・三平方メートルあたり一三万円と見込んでいた。

(c) 向井は昭和四九年一月ころ、第三建物について一六五万円の費用をかけて改装工事をし、右改装費は当然建物価額に加えられるべきである。

(d) 原告は坂本に右建物を賃貸するにあたり、敷金六〇万円、一か月分の家賃六万円を受領していた。

(2) ところが原告は第三次年度分の確定申告に際し、第三物件の合計代金五五〇万円の内訳を、第三土地六〇万円、第三建物四〇万円、飲食業に係る営業権四五〇万円と計上し、右営業権を坂本に一五〇万円で売却し、これによつて生じた営業権売却損が三〇〇万円生じたとして、これを損金に算入した。

(3) しかし原告に営業権売却損は生じていないから、原告が第三次年度の損金に算入した三〇〇万円は、第六表2<5>のとおり、右事業年度の申告所得金額に加算されるべきである。なお第三建物の取得価額三〇四万四〇〇〇円について原告主張の減価償却をした第三次年度の減価償却費五五万五五三〇円と原告申告の減価償却費七万三〇〇〇円との差額四八万二五三〇円は更に同表3<1>のとおり損金として所得金額から減算すべきことになる。

(四) 第六表2<6>の減価償却超過額第一次年度分一七〇万二八四八円、第二次年度分一八〇万一六一四円、第三次年度分一五四万五七八四円について

(1)(イ) 原告は昭和四七年一二月九日、高田博愛と後藤美夫(以下後藤らという)の共有に係る別紙物件目録第四の(一)(二)記載の土地(以下第四土地という)上に存在する阿部喜男及び阿部ヒデヨ(以下阿部らという)所有の同目録第四記載の建物(以下第四建物という)と右土地についての賃借権(以下第四借地権という なお目的物件全体を第四物件ともいう。)を一括して総代金一五五〇万円で買い受けた。

(ロ) そして原告は昭和四八年三月七日、高田らから第四借地権の譲渡につき承諾を得、高田らに対しその対価(更改料)二〇〇万円を支払う旨約し、同日と昭和五一年一一月五日にそれぞれ一〇〇万円ずつ支払つた。

(ハ) 右総代金の内訳(建物と借地権の各取得価額)について

別紙第四表のとおり、総代金一五五〇万円のうち、建物取得価額は一一〇万九七三一円、借地権取得価額は一四三九万〇二六九円であつた。すなわち、第四建物の減価償却計算の基礎となる同建物の取得価額及び賃借権取得価額については契約時の適正な時価を算出すべきところ、その際、相続税の財産評価基準による評価額の割合に応じて、総代金額を各資産に案分して各取得価額を算出するのが合理的である。

(ニ) 第四建物の減価償却費は別紙第五表のとおり、その取得価額一一〇万九七三一円を基礎として、これに原告が採用している耐用年数(一五年)・償却方法(定率法)を適用して計算すると、第五表(二)のとおりとなる。

(2) ところが原告は賃借権が売買の対象になつていなかつたことを前提として、総代金一五五〇万円が全部第四建物の取得価額であるとみなし、第五表(一)のとおり、第四建物に対する減価償却費として第一次年度分一八三万四一六六円、第二次年度分一九四万〇五四八円、第三次年度分一六六万四九九〇円を右各事業年度の損金に算入した。

(3) しかし第五表(三)の各差額は、それぞれ損金に算入すべきでなく、各減価償却超過額として、第六表2<6>のとおり申告所得額に加算すべきである。

四  被告の主張に対する認否

1  被告主張1は争う。

2  同2の冒頭の事実中、各年度の原告の確定申告額は認める。

(一)(1) 同2(一)(1)の事実中、(ロ)の第一借地権が売買の対象になつていたこと、(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)の各事実は否認するが、その余の事実は認める。

(2)(イ) 同(一)(2)(イ)の事実は認める。

(ロ) 同(2)(ロ)(a)の事実は認めるが、(b)の事実は否認する。

(3) 同(一)(3)は争う。

(4) 同(一)(4)の通達の存在は認める。

(5) 同(一)(5)の冒頭の事実は否認する。

(イ) 同(5)(イ)の事実中契約締結の事実は否認するが、その余の事実は認める。

なお、原告が昭和四八年一二月三日と同月二四日にわたつて支払つた合計一三〇万円の更改料は第一建物の売買を後藤が承知して第一借地権の譲渡を認めたことによる承諾料であり、これは既存の右建物を取り壊すことなく使用収益することを条件とする更改料であつた。ところが、昭和四九年一月三一日振出しの約束手形二通金額合計二四五万円は原告が同月、後藤と再度交渉した結果、原告が右建物を取り壊して新建物を建築することにつき承諾したことの対価であつて、被告主張のような更改料の分割払ではなく、前者の一三〇万円の更改料とはその性格を異にする。

(ロ) 同(5)(ロ)の事実は認める。なお中田と田渕が昭和四八年一一月まで原告に賃料を支払わなかつたのは、中田が原告の第一建物の所有権の取得を争い、田渕が同建物につき原告への所有権移転登記が経由されるまで津田に賃料を支払う旨主張していたからである。

(ハ)(a) 同(5)(ハ)(a)の事実中、売買代金の減額の事実は認めるが、その余の事実は否認する。

(b) 同(ハ)(b)の事実は否認する。

(ニ)(a) 同(5)(ニ)(a)の事実は否認する。

(b) 同(ニ)(b)の事実は認める。ただし被告主張の「法人の事業概況説明書」は昭和四九年三月末日に作成されたものであり、この時点では原告の方針が改築する方向に向つていたため、右書面記載の表現となつたに過ぎない。

(6) 同(一)(6)の事実は認める。

(7) 同(一)(7)は争う。

(二)(1) 同2(二)(1)の事実は認める。

(2)(イ) 同(二)(2)(イ)は争う。

(ロ)(a) 同(2)(ロ)(a)の事実は否認する。

(b) 同(ロ)(b)の事実中、帳簿価額は否認し、その余の事実は不知。

(c) 同(ロ)(c)の事実は否認する。

(3) 同(二)(3)の事実は認める。

(4) 同(二)(4)は争う。

(三)(1)(イ) 同2(三)(1)(イ)の事実は認める。ただし売買の対象物件には被告主張の物件のほかに、営業権が含まれており、第三什器備品はその一部をなすものである。

(ロ) 同(1)(ロ)の事実は認める。ただし売買の対象物件は第三什器備品を含む営業権である。

(ハ)(a) 同(1)(ハ)(a)の事実中、売買契約書中に売買の目的物件として第三物件のみが表示され、営業権の表示がなかつたことは認めるが、藤原提出の所得税申告書に営業権売却の記載がなかつたとの点は知らない、その余の事実は否認する。

(b) 同(ハ)(b)の後段の事実中、各税の申告の事実は不知、その余の事実は否認する。

(c) 同(ハ)(c)の事実は認める。なお、領収書に営業権を表示しなかつたのは、賃借人が不当な権利意識を持ち、賃貸人の承諾なしに勝手に営業権を売買することを抑制しようとしたからに過ぎない。

(ニ) 同(1)(ニ)の冒頭は争う。

(a) 同(ニ)(a)は争う。

(b) 同(ニ)(b)の事実は否認する。

(c) 同(ニ)(c)の事実中、第三建物について一六五万円の費用で改装工事を行つたことは認めるが、その余は争う。

(d) 同(ニ)(d)の事実は認める。

(2) 同(三)(2)の事実は認める。

(3) 同(三)(3)は争う。

(四)(1)(イ) 同2(四)(1)(イ)の事実中、借地権が売買の対象物件であつたことは否認するが、その余の事実は認める。

(ロ) 同(1)(ロ)の事実は認める。

(ハ) 同(1)(ハ)(ニ)は争う。

(2) 同(四)(2)の事実は認める。

(3) 同(四)(3)は争う。

五  原告の反論

1  被告の主張2(一)に対する反論

(一) 第一借地権が売買の対象物件に入つていなかつたことについて

原告と津田との間の売買の対象物件は、第一建物のみであり、第一借地権は含まれていなかつた。すなわち、

(1) 津田及びその先代は、地主後藤に対し数十年来賃料を支払つておらず、右売買契約当時、第一建物の敷地である第一土地につき賃借権を有していなかつた。そのため、原告は後藤との間で賃借権の譲渡について事前に交渉しておらず、第一建物の買い受け後、後藤に対し第一土地の賃借を申し入れ、既存の第一建物をそのまま使用する条件で、更改料一三〇万円を支払うことの約定のもとに後藤から第一土地を賃借し、その後承諾料二四五万円を支払つて改築の同意を得た。

(2) 仮に第一借地権が売買の目的となつていたとしても、借地権の無断譲渡を事由として、昭和四八年一〇月一七日後藤が津田に対し賃貸借契約解除の意思表示をした。その後原告は後藤と交渉し、ようやく、右譲渡につき同人の承諾を得賃借権を取得することができた。

(二) 第一建物の所有権取得の時期について

原告が第一建物を取得したのは、売買契約締結日である昭和四八年四月一八日である。このことは所得税基本通達三三-九、三六-一二ただし書の規定からも明らかである。そして原告は同日第一建物の引渡しを受け、同日以降これを使用収益するとともに、右建物を改造のうえ最有効利用するため、売買契約成立直後から、借家人との間で改造工事のため右建物部分の明渡しの交渉を行つた。

(三) 第一建物を取得した目的について

原告が第一建物を取得した目的は、同建物を改造して利用することであり、新築する建物の敷地の借地権を取得する便宜上第一建物を取得したのではなかつた。すなわち、第一建物には売買契約締結の直前まで、津田とその家族及び間借人が居住し、また借家人中田及び田渕は第一建物の一部で現に飲食店を経営し、両人とも相前後して店舗を改装した状況にあり、第一建物は改造により十分に利用できる状態であつた。右契約締結の直後、改造工事に取り掛るまでの間、第一建物は原告の関連会社である有限会社梅原商店により物置として使用されるとともに、原告自身により自営の喫茶店「いづみ」の改装期間中の物置として使用された。

(四) 取壊し着手の時期について

その時期は、昭和四九年六月一日であつた。すなわち、

(1) 昭和四九年三月六日に着手された松和建設による工事は第一建物の内部改造工事であつた。

(2) 右着工後、原告は第一建物の改築工事を計画し、昭和四九年五月二四日有限会社高下組(以下高下組という)との間で、新建物の建築工事請負契約を締結した。

(3) そして第一建物の取壊しに着手した日は、同年六月一日であつた。

(五) 原告の経理処理の相当性

(1) 本件については、法人税基本通達七-三-六の規定にいうところの「取得後おおむね一年以内に当該建物等の取壊しに着手」した場合に該当しないし、他に「当初から建物等を取壊して土地を利用することが明らかであると認められるとき」にあたる事情もない。

(2) そこで原告は当時の法人税基本通達七-七-七の規定に従つて第一建物の取壊し直前の帳簿価額を損金に算入し、取壊し費用については任意に新築した建物の取得価額に算入した。

(3) 中田に支払つた立ち退き料八〇〇万円は、建築基準法所定の法定通路幅を確保して第一建物を改造し、最有効利用するための出費であり、賃借権の取得の対価には含まれないから、基本通達七-三-五の規定により、建物勘定に計上すべきである。

2  被告の主張2(二)に対する反論

原告がマルエイから買い受けた第二物件の総代金額の内訳は第二土地が二〇〇〇万円、第二建物が二四〇〇万円、第二付属設備が二〇〇万円である。すなわち、

(一) 原告とマルエイらとの間で右内訳の代金の額による売買契約が締結された。

(二) 第二土地の代金が二〇〇〇万円と定められたのは、原告の事業目的が建物の賃貸業であるため、第二建物についてはその価値を優先的に再取得価額により評価し、第二土地については、その上にコンクリート造のビルが存在していたので底地価額を三・三平方メートルあたり二〇万円と評価したためであり、更に第二の(二)の土地については佐田山がすでに第三者に売却していた疑いがあり、将来その所有権を喪失するおそれがあることを考慮したからである。なお、原告はその後協同組合丸合(以下丸合という)から第二の(二)土地について所有権移転登記手続請求の訴を提起されて敗訴し、結局右土地の所有権を取得できなかつた。

(三)(1) 原告と佐田山との間の売買契約の締結に際し、同人はマルエイに対し立ち退き料五〇〇万円を支払つてマルエイから賃借権を買い戻し、評価上は更地状態の土地として契約を締結した。したがつて、第二土地の取得価額を認定するにあたつてはこの点を考慮しなければならない。

(2) すなわち、

(イ) 立ち退き料五〇〇万円が適正な賃借権価額であるとすると、昭和四八年当時の相続税財産評価基準によれば、第二土地の賃借権割合は更地価額の五五パーセントであるから、右土地の更地価額は別紙第七表(1)のとおり九〇九万〇九〇九円となる。

(ロ) 原告の取得時における第二建物及び第二付属設備のマルエイの各帳簿価額(償却残高及び設備造作)は左記(b)(c)のとおりでありこれに右(イ)の計算結果を(a)として合計すると、次のとおりであり、これが同一基準で振り分けた譲渡原価として妥当な金額である。

(a) 土地 九〇九万〇九〇九円

(b) 建物 一二六〇万三六二四円

(c) 付属設備 一六二万五七七六円

合計 二三三二万〇三〇九円

(ハ) そこで、実際の売買価額四六〇〇万円を右の各金額の割合に応じて各物件に案分すると、同表(2)のとおり第二土地一七九二万七二七三円、第二建物二四八五万四三四七円、第二付属設備三二〇万六〇三〇円となり、売買契約の際取り決めた金額に近似する(特に土地については実際の取引額の方が大きいのであるから、原告が故意に土地の取得価額を低く押さえたものでないことは明らかである。)。

(四) 被告は佐田山の所得税確定申告を根拠として第二土地の取得価額を三一〇〇万円と認定しているが、右申告額は佐田山が租税特別措置法三七条の規定による買換資産の承認申請のために一方的、作為的に設定したものであるから、正当な根拠となり得ない。

すなわち、マルエイとその代表者である佐田山は、第二物件の売買に関する節税対策として、一方でマルエイの第二建物等の売却益をできるだけ圧縮し他方で佐田山個人の第二土地の譲渡価額を買換資産の見積額三三〇〇万円の範囲内で同金額にできるだけ近似させるために、原告との売買契約で決められた金額を無視して、第二建物等の譲渡価額を一五〇〇万円、第二土地の譲渡価額を三一〇〇万円と設定したものである。

3  被告の主張2(三)に対する反論

(一) 向井、原告間の売買について

(1) 第三建物内では、原告と向井との間の売買契約締結の直前まで、向井の知人が「酌々」の屋号で飲食店を経営していたところ、原告は第三土地建物とともに同店の営業権を一括して買い受けた。

(2) 第三物件の取得価額は、第三土地六〇万円、第三建物四〇万円、営業権四五〇万円であり、その根拠は次のとおりである。

(イ) 飲食業の店舗のうち、その建物外郭を除いた店舗用造作、付属設備、什器備品一切を一括して譲渡する場合には、通常居抜き権利(営業権)の売買として取り扱うのが飲食業界の一般的慣行である。本件では、原告は第三建物内の第三什器備品を別個独立に取得したものではなく、右の営業権として取得したものである。

(ロ) 営業権の金額については、当時飲食業の店舗の営業権の売買事例が三・三平方メートルあたり三〇ないし三五万円で、第三建物の営業に供する場所の面積は四九・五八平方メートルであり、什器備品が数年間使用可能であり、造作もさしあたつて修理不要と認められたこと等を斟酌して四五〇万円と決定された。

(ハ) 第三土地建物については、取得当時の相続財産評価基準(土地五六万五七六〇円、建物二六万九八〇〇円)を参考に決定した。

(ニ) 第三建物の所在地は飲食店の密集地であつたから、一般居住用家屋としての価値はなく、営業用設備、造作、什器備品を総合した営業権の評価を優先させることが相当である。

(ホ) 被告は建物改造費一六五万円を建物価格に付加しているが、本件のように飲食店営業のために営業用造作、設備を付加した場合は、営業権の価値の増加として把握し、営業権の価額に加えるべきである。

したがつて被告主張の第三表<1>の建物償却残額一八〇万〇五八二円のうち、改造費の償却残額一五四万七五三五円は営業権価額に加えるべきであり、その余の二五万三〇四七円のみが第三建物の償却残額となり、その償却残額の振り分けは次のとおり修正されるべきである。

土地 五六万五七六〇円

建物 二五万三〇四七円 (1,800,582-1,547,535)

営業権 二四一万八二九四円 (870,759+1,547,535)

合計 三二三万七一〇一円

(二) 原告と坂本との間の売買について

(1) 原告は、第三建物の外郭を除いた店舗用造作、付属設備及び什器備品、すなわち営業権を坂本に一五〇万円で売却した。

(2) 原告は坂本に対し、右営業権の売買と同時に、第三建物を敷金六〇万円、賃料一か月六万円の約定で賃貸したが、右賃貸借開始日(昭和五〇年一一月一日)から昭和五六年五月末日までの間の右賃料収入総額は四四五万四〇〇〇円であり、これによつて、坂本に対する営業権売却損三〇〇万円はすでに補てんされているばかりか、営業権を取得するために投下した四五〇万円もほぼ回収されている。したがつて、一時期に三〇〇万円の売却損が生じたとしても、右事実及び原告の系列会社である有限会社ウメハラの酒類の売上が伸びることによる利益や預り敷金の運用効果を考え合わせると、原告の取引行為ないし経理処理は不当とはいえない。

六  原告の反論に対する被告の認否

1  原告の反論1について

(一)(1) (一)(1)の事実は否認する。

(2) (一)(2)の事実中、後藤が賃借権の譲渡を承諾した日に、原告が賃借権を取得したことは否認する。

(二) (二)の事実は否認する。

(三) (三) の事実中、売買契約の締結直前に第一建物に津田とその家族らが居住し、中田及び田渕が建物の一部で飲食店を営業していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四)(1) (四)の冒頭の事実は否認する。

(2) (四)(1)の事実は否認する。

(3) (四)(2)の事実中、昭和四九年五月二四日原告と高下組との間で工事請負契約が締結されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(4) (四)(3)の事実は否認する。

(五)(1) (五)(1)は争う。

(2) (五)(2)の事実は認める。

(3) (五)(3)は争う。

2  原告の反論2について

(一) (一)の事実は否認する。

(二) (二)の事実中、原告が丸合から所有権移転登記手続請求の訴を提起されて敗訴したことは認めるが、その余の事実は否認する。

(三)(1) (三)(1)は争う。

(2) (三)(2)(イ)、(ロ)、(ハ)の事実は否認する。

(四) (四)の事実は否認する。

(五) 第二の(二)の土地及び同土地上の第二の(2)の建物がなかつたものと仮定して固定資産税評価額を基礎に第二の(一)の土地及び同土地上の第二の(1)の建物等の価額を算出すると別紙第八表記載のとおり、第二の(一)の土地が三一一〇万五二〇〇円、第二の(1)建物が一四八九万四八〇〇円となり、被告主張の金額に近似することに変わりはない。

3  原告の反論3について

(一)(1) (一)(1)の事実は否認する。

(2) (一)(2)の各事実は、いずれも否認する。

(二)(1) (二)(1)の事実は否認する。

(2) (二)(2)の事実中、原告が坂本に対し第三建物を原告主張の約定で賃貸したことは認めるが、その余は否認する。

第三証拠関係

一  原告

1  甲第一号証、第二号証の一ないし三、第三ないし第五号証、第六号証の一ないし三、第七号証、第八号証の一、二、第九号証の一ないし四、第一〇、一一号証、第一二ないて第一五号証のの各一ないし四、第一六ないし第二七号証、第二八号証の一、二、第二九ないし第三二号証、第三三号証の一、二、第三四号証の一ないし四、第三五ないし第三九号証

2  証人松本良雄、同岡田亀男、同高田徳幸、同松本佑亮、同大柄定子、同角田達朗、同秋里勇、同松浦研二、同高下宗正、同津田つゆ子、原告代表者

3  乙第六、七号証、第九号証、第一一号証、第一三ないし第一六号証、第一七号証の一、第一八ないし第二〇号証、第六号証の一ないし四、第四七号証の一、第五〇号証の一、三、四、第五一ないし第五九号証の成立は不知。その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

1  乙第一号証、第二号証の一ないし六、第三号証の一ないし三、第四ないし第一六号証、第一七号証の一ないし三、第八ないし第二二号証、第二三号証の一ないし三、第二四、二五号証、第二六号証の一ないし四、第二七ないし第三九号証、第四〇号証の一、二、第四一ないし第四六号証、第四七号証の一ないし四、第四八、四九号証、第五〇号証の一ないし五、第五一ないし第五九号証、第六〇号証の一ないし三

2  証人渡部仁志、同下森貴代登、同藤井哲男

3  甲第八号証の一、二、第一一号証、第一二ないし第一四号証の各二、四、第一六号証、第一九ないし第二二号証、第二六号証(原本の存在存び成立とも)、第二八号証の一、二、第二九、三〇号証、第三二号証、第三四号証の一ないし四、第三五号証の成立は不知。第一〇号証の成立は否認とする。第三、四号証のうち各郵便官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知。第一二ないし第一四号証の各一、第一七、一八号証、第二三、二四号証のうち各官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は不知。その余の甲号各証の成立は認める(ただし第一二ないし第一四号証の各三の年月日は虚偽の記載である。)。

理由

一  請求原因12の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各更正決定が原告の所得を過大に認定したものか否かについて判断する。

1  原告の本件三事業年度の各確定申告額が、第一次年度分の申告欠損金額四八六万五九〇七円、第二次年度分の申告欠損金額一五二一万七六三三円、第三次年度分零であつたことは当事者間に争いがない。

2  被告の主張2(一)について

(一)  賃借権が売買の対象物件になつていることについて

(1) 原告が昭和四八年四月一八日津田との間で、津田が原告に対し後藤所有の第一土地上に存在する第一建物を、代金一四八〇万円(ただし後日一三〇〇万円に減額された。)、建物の火災等による焼失のときでも代金全額を支払うことと定めた内容の売買契約を締結したこと、原告が昭和四八年一二月四日までに津田に対し代金一三〇〇万円を支払つたこと、原告が第一建物の借家人の中田に対し昭和四八年一一月八日から同年一二月四日までの間に立ち退き料八〇〇万円を支払つたこと、原告が津田に対し同日までに代金全額を支払い、同月五日津田から第一建物につき同月四日の売買を原因とする所有権移転登記を受け、同月中に右建物の明渡しを受け、後藤に対し同月分からの地代を支払つたことは、当事者間に争いがない。

(2) 成立に争いのない甲第一号証、第九号証の一ないし四、乙第二一号証、郵便官署作成部分の成立に争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三、四号証、証人渡部仁志の証言、これにより真正に成立したと認められる乙第一七号証の一、証人下森貴代登の証言、これにより真正に成立したと認められる乙第二〇号証、証人津田つゆ子、同松本良雄、同松本佑亮の各証言及び原告代表者尋問の結果によれば、原告は津田との間で売買契約を締結した際、特約として第一建物の敷地の一部(約二〇坪)の所有者田村写真館こと竹尾富美との間の借地権を確立しておくこととしているのに、他の地主(後藤ら)との借地権については何ら同契約でふれていなかつたこと、原告は昭和四八年三月中ころ、米子信用金庫に対し第一建物の購入資金として一八〇〇万円の融資を申し込んだ際、その内訳を購入価額一五〇〇万円、更改料三〇〇万円としていたこと、米子信用金庫も右融資を決定するにつき、原告が借地権を取得することを当然の前提としていたこと、敷地の一部である第一土地の所有者後藤は津田が第一建物を第三者に売却したことを聞知し、津田にそれについて問い質したところ、原告に右建物とともに第一借地権も売り渡した旨の回答を得たこと、そして原告は津田に対し昭和四八年一〇月一七日借地権の無断譲渡を理由に賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと(ただしこの点は当事者間に争いがない)、右解除の事実を知つた原告は、後藤との間で借地権の譲渡の承諾を得ることについて交渉した結果、同年一二月三日、その承諾を得たこと、津田は後藤に対し約一〇年間にわたり賃料を支払つていなかつたが、第一建物を立ち退く際、同人との間で未払賃料を精算したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) 以上の事実を総合すれば、津田は第一建物の敷地のうち第一土地について少くとも後藤との間に賃貸借契約を締結しており、原告に第一建物とともに第一借地権をも売り渡し、売買代金の中には、借地権の分も含まれていたものと認めることができる。

(二)  原告の第一建物の取得目的について

(1) 前掲の甲第一号証、乙第二〇号証、成立に争いのない甲第二号証の一ないし三、乙第一号証、第二号証の一ないし六、三号証の一ないし三、第五号証、第二三号証の一ないし三、第二四号証、第四七号証の二、三、第五〇号証の二、証人高田徳幸の証言、これにより真正に成立したと認められる甲第八号証の一、二、原告代表者尋問の結果の一部、これにより真正に成立したと認められる甲第一九ないし第二二号証、第二八号証の一、二、第三〇号証、証人秋里勇の証言、これにより真正に成立したと認められる甲第二九号証、証人藤井哲男の証言、これにより真正に成立したと認められる乙第五〇号証の一、三、第五一ないし第五三号証、証人津田つゆ子、同渡部仁志、同岡田亀男、同松浦研二、同高下宗正の各証言、弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認めることができる。

(イ) 原告は、昭和四八年三月ころ、津田の娘婿山根武和から第一建物の購入方を頼まれた。右建物は明治末ころ建てられた居宅であり、その後旅館営業用に改装されたが、昭和二七年ころ旅館の用途が廃止され、昭和四八年三月当時の建物の内部の状況は、一階の道路側には、向かつて右側に玄関があり、その右側に、中田が経営するスナツク「樹林」、更に田渕(名義上は田渕文二子)の経営するスナツク「苑」が順次並んで現に営業中であり、一階の奥側及び二階は旅館営業当時のままの状態で、一階奥の二部屋に間借人が、二階道路側の部屋に津田夫婦とその長男夫婦らが居住していた。

(ロ) 原告は、右建物内部を改造して飲食店業者にテナント貸しする方針のもとに、富谷一級建築士事務所に右改造の可否を相談したところ、右改造は可能であるが、建築基準法所定の通路幅(一・六メートル)を確保しなければならないとの返答を得たので、右通路開設のための設計図の作成を依頼した。その結果、当時存在していた正面玄関から奥側へ通じる通路を利用し、途中で一部「樹林」の建物が通路側に突き出ていたため、その部分を取り壊して法定通路幅を確保する方法(A案)と、「樹林」の店舗を全部取り壊して、現通路側に移設し、「樹林」と「苑」の中央に新しい通路を設ける方法(B案)の二通りが立案された。B案によれば「樹林」全体を移設する必要があり、A案に比べ費用が多額になるため、原告は、A案に沿つて計画を進めることとした。

(ハ) 右計画のもとに原告は、昭和四八年三月中に米子信用金庫に対し建物購入資金一五〇〇万円と地主へ支払う更改料の支払資金三〇〇万円の借入れを申し込み、同年五月三〇日その承諾を得た。同月一四日原告は津田に対し売買契約に基づき手付金三〇〇万円を支払い残金は内四〇〇万円を同年七月一五日、内七八〇万円を所有権移転登記に必要な書類と引換えに同年一〇月一五日に支払うこととし、右同日を物件引渡し日とした。

(ニ) 原告はA案によつて計画を進めるため昭和四八年四月ころ、知人の岡田亀男を介して、中田に対し「樹林」の一部取壊しにつき同意を求めたが、中田は、原告が山根武和から第一建物の買取り方を依頼される以前に、すでに同人から同じ依頼を受け、右建物を一三五〇万円で買い受ける旨の約束がまとまり、購入後跡地にビルを建築するべく金策をし、後藤から借地権の譲渡についての承諾も得ていたため、原告が先んじて津田との契約を締結したことに噴慨し、即日原告からの右要求を拒否した。更に同年八月ころ、原告から、原告が第一建物の取壊し後の跡地に新築するビルの良い場所に入店させることを条件として立ち退きを求められた中田は、一度はそれを拒否したものの、結局同年九月、立ち退き料八〇〇万円と引換えに第一建物から退去することを承諾し、原告から前記のとおり立ち退き料八〇〇万円を受け取つて、同年一二月四日ころ右建物から退去した。

(ホ) 中田に対して負担した八〇〇万円の立ち退き料の支払債務は原告の予想を超えるものであつたため、原告は昭和四八年一〇月ころ津田に対し、売買代金の減額交渉をし、同人と代金を一三〇〇万円とする旨合意した(ただし減額については当事者間に争いがない)。

(ヘ) 原告は昭和四八年一〇月借家人である田渕(「苑」)との間で立ち退き交渉を開始し、同人に対し右新築予定のビルに入店させることを条件として立ち退きを求めた。

(ト) 次に原告は津田が昭和四八年一〇月一七日付で後藤から敷地の賃貸借契約解除の通知を受けたことを知つて、同人との間で右賃借権の譲渡についての交渉を行つた。その結果同年一二月三日両者間に、後藤は津田から原告への借地権の譲渡及び原告が借地上に改築することを承諾し、原告はその対価として更改料三七五万円を支払う旨の合意が成立した。

(チ) 原告は昭和四九年一月八日、後藤に対し、第一建物の跡地に「グリーンビル」という名称の建物を改築するとの具体的計画を示して、右計画に対する同人の同意を得るとともに、改築資金の融資交渉に際し、銀行等に提出する同人名義の承諾書を同人から差し入れてもらつた。

(リ) 昭和四九年二月ころ、原告は米子信用金庫との間で約一か月間にわたり、新ビル建築資金の融資申込みについて交渉を行つたが、先に建物購入資金を融資して間もないのに右改築資金を融資することはできないとの理由で右貸出しを拒絶された。そこで同年四月ころから、原告の従前からの取引銀行である株式会社松江相互銀行と金額四〇〇〇万円(ただし工事資金はそのうち二三〇〇万円)の融資交渉を行つて、その内諾を得、同年七月一五日正式な借入れの申込みをした。

(ヌ) 原告から第一建物の取壊し工事を依頼された松和建設は、同年三月六日、右工事に着手したが、内壁、床、天井等を撤去し、屋根、柱、はりの一部、外壁が残つた段階で、原告からの求めに応じて同月一六日、右工事を中止し、原告は松和建設に対し右工事費として三六万〇一〇〇円を支払つた(ただしこの点は当事者間に争いがない。)。

(ル) 原告は昭和四九年三月、富谷一級建築士事務所に新築ビルの設計を依頼し、同年四月二日、右事務所から建築確認申請書添付用図面の提出を受けて右申請をし、同年五月二五日、建築確認通知を受けた。その間原告は新築工事の請負業者を決定するべく入札を実施した。そして同月二四日落札した高下組との間で建築工事請負契約を締結した(ただしこの点は当事者間に争いがない。)。

(ヲ) 高下組は同年六月一日、工事に着手し、まず松和建設の前記工事後残存していた第一建物を撤去したうえ、新ビルの建築工事に取り掛り、同年一一月ころ新ビル(グリーンビル)を完成させた。

(ワ) 原告が第一次年度の確定申告に際して提出した「法人の事業概況説明書」中には、「新規飲食ビル建築予定のもとに家屋を買収せるも、諸般の事情により建築時期が甚しく遅延したため、家賃収入が当初の予定より低下し云々」との記載があつた(ただしこの点は当事者間に争いがない。)。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告代表者の供述部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) 右によれば原告は当初第一建物を改造して賃貸する計画のもとに、津田と売買契約を締結し、右計画実現のため準備をしたものの、思うように進捗せず、また不意の出費を余儀なくされたため昭和四八年一〇月ころには右計画を再検討し、新ビル建築の意向に傾き、遅くとも売買代金を支払い終つた同年一二月四日までには右建物を取り壊して跡地に新ビルを建築することに計画を変更していたものと認めることができる。

(三)  第一建物の所有権及び第一借地権を取得した時期について

(1) その時期については、右資産に関する原告の権利が確定した時すなわち所有権移転の効力が発生した時をもつて、右取得時期とし、売買契約締結日や引渡日は所有権移転時期を判断する際の一つの要素になるものと解する。

(2) これを本件についてみるに、前掲の甲第一号証、第二号証の一ないし三、第二八号証の一、二、第二九号証、第三〇号証、乙第一号証、第二号証の一ないし六、第五号証、第二〇号証、第二三号証の一、第五〇号証の一ないし三、第五一号証、証人秋里勇、同藤井哲男、同渡部仁志、同津田つゆ子の各証言の一部、原告代表者尋問の結果の一部によると、次の事実を認めることができる。

(イ) 原告と津田との間では、第一建物の所有権移転時期につき売買代金全額の授受が完了した時とし、残代金支払日と物件引渡日を昭和四八年一〇月一五日とする旨約定されていたが、実際に右両者間で代金全額の授受が完了したのは前記のとおり同年一二月四日であつた。

(ロ) 右両者間で、第一建物の収益の帰属、費用の負担に関し、所有権移転の効力発生日を境として、それ以前を売主、それ以後を買主として精算する旨約定していた。第一建物の一階の一部を賃借していた中田及び田渕は同年一一月ころまで津田に家賃を支払い(ただしこの点は当事者間に争いがない。)、同年一二月以降は津田を相手方として(昭和四九年一二月に相手方を原告に変更)賃料を供託した。他方原告は昭和四八年一二月三日に後藤から借地権の譲渡の承諾を得て、同月分から地代の支払を始めた(地代の支払については当事者間に争いがない。)。

(ハ) 原告は売買契約締結後、津田から第一建物の玄関の二個ある鍵のうち一個を受け取り、同建物の中庭を原告と代表者を同じくする関連会社の酒店の空瓶等の置場として使用し、また原告経営の喫茶店「いづみ」が昭和四八年春から夏にかけて改装工事を行つた際、店内の什器備品等の置場として一時使用していた。他方、津田は契約締結後も妻や長男及びその妻子らと第一建物に居住し、更に同年の七月ころから同年一〇月ころまでの間、原告の四男津田宣久も右建物に一時居住していた。そして、同年一〇月一二日ころ長男夫婦らが、また同年一二月一六日ころ津田夫婦が右建物から退去した。

以上の認定に反する甲第一〇号証の記載部分、証人津田つゆ子、原告代表者の各供述部分は、前掲各証拠に照らし措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) 以上の事実によれば、第一建物の所有権が津田から原告に移転した時期は昭和四八年一二月四日であり、また第一借地権については、その譲受けの承諾を得た日である同月三日であると認めることができる。もつとも原告が津田との間に昭和四八年四月一八日第一建物の売買契約書を取り交したことは前述のとおりであるが、建物の所有者とその建物の敷地の所有者が異なる場合、建物のみを取得(借地権をともに取得する場合を含む)しても、借地権を土地の所有者に対抗できなければ、その建物は存続することができず、結局売買の目的を達し得ないのであつて、これに前記認定の中田が第一建物を取得する予定があつたことを併せ考えれば、右四月一八日の契約書は建物取得に至るまでの一段階での契約に過ぎず、さればこそ中田との交渉で多額の立ち退き料を支払つた原告は前記のとおり津田に代金減額を求め津田もこれに応じているのであつて、右契約書の存在をもつて原告の第一建物の取得時期に関する前記認定を覆えすことはできない。

(四)  第一建物の取壊しに着手した時期について

(1) 前記認定の事実によれば、原告が第一建物の取壊しに着手したのは、松和建設が工事を開始した昭和四九年三月六日であると認めることができる。

(2) なおこの点に関し原告は、松和建設の行つた工事は改造のための一部取壊しであり、当時原告は改築の意図を有していなかつたと主張し、原告代表者、証人高田徳幸、同松浦研二の各供述中には右主張に沿う供述部分があるが、これは前記認定事実、前掲の乙第五三号証に照らし措信できず、他に原告の前記主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。

(五)(1)  以上によれば原告が第一建物を取得したのは昭和四八年一二月四日(第一借地権については同月三日)であり、原告は右同日までには第一建物を取り壊し跡地に新ビルを建築することに計画変更していたのであるから、原告はその跡地たる土地を取得するために第一建物を取得したと推認することができる。

(2)  原告は第一建物を取得後一年以内である昭和四九年三月六日に第一建物を取り壊したことは前述のとおりであるが、このような事実があれば、当初から土地を利用するために建物等等を取得したとみてよく、法人税基本通達七-三-六(この通達の存在については当事者間に争いがない。)もまた右の趣旨をいうものと解される。

(六)  結論

(1) 以上の認定によると、原告が津田に支払つた売買代金一三〇〇万円及び松和建設に支払つた建物取壊し費用三六万〇一〇〇円はいずれも借地権の取得価額とすべきであり(法人税法基本通達七-三-六も同趣旨と解される。)、また、中田に支払つた立ち退き料八〇〇万円も、借家人を立ち退かせたうえで建物を取り壊し、借地権を利用するために支出されたものであつて、これもまた借地権の対価的性質を有するものといえる。(法人税法基本通達七-三-五も同趣旨と解される。)から、借地権の取得価額に算入すべきである。

(2) したがつて原告の申告した第一建物取得価額二一〇〇万円に対する各減価償却費(第一次年度分二四八万四九九九円、第二次年度分一五三万三六五八円)、改築した建物の取得価額(第一建物の取壊し費用)三六万〇一〇〇円に対する減価償却費(第三次年度分二万〇一六五円)及び第二次年度の建物除却損一六九八万一三四三円(以上の申告内容については当事者間に争いがない)は、いずれも当該各事業年度の損金に算入すべきではなく、第一一表の2<1><2><3>のとおり申告所得額に加算すべきである。

3  被告の主張2(二)について

(一)  被告の主張2(二)(1)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  そこで第二建物等の取得価額について検討する。

(1) 成立に争いのない乙第八号証、証人渡部仁志、同下森貴代登の各証言、これにより真正に成立したと認められる乙第六、七号証、第九号証によれば、第二土地の売主の佐田山は、昭和四八年分の所得税の確定申告に際し、右土地の譲渡価額を三一〇〇万円と申告したこと、第二建物等の売主のマルエイは、同申告に際し、右建物等の譲渡価額を一五〇〇万円と申告したこと、マルエイは昭和四一年九月に、第二建物を一六一八万二六五八円で買い受け、原告への譲渡時における第二建物、第二付属設備の帳簿価額はそれぞれ一二六〇万三六二四円、一六二万五七七六円(以上合計一四二二万九四〇〇円)であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) また成立に争いのない乙第四九号証、証人渡部仁志の証言、これにより真正に成立したと認められる乙第一九号証によると、昭和四八年一月一日現在の固定資産税評価額は、第二土地が二三七五万九五〇〇円、第二建物が九二五万二八〇〇円であつたことが認められ、売買代金総額四六〇〇万円を右評価額を基準として各物件に案分すると、第二土地が三三一〇万六二〇〇円、第二建物が一二八九万三八〇〇円となり、また前掲の証拠によると、米子税務署資産税課が、固定資産税評価額を基にして評定した昭和四八年当時における第二土地の見込み時価は、四五一四万三〇〇〇円(三・三平方メートルあたり約四五万円)であつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) 以上の事実を総合すると原告がマルエイらから買い受けた第二物件の価額は第二土地が三一〇〇万円、第二建物等が一五〇〇万円と認めるのが相当である。

(三)  ところで、原告は第二土地の取得価額は二〇〇〇万円であり、第二建物の取得価額は二四〇〇万円であると主張するので、その根拠につき検討を加える。

(1) 成立に争いのない甲第五号証によると、原告とマルエイ間の売買契約書には、第二物件の価額につき、第二土地を二〇〇〇万円、第二建物を二四〇〇万円、第二付属設備を二〇〇万円とする旨記載されていることが認められ、原告代表者の供述中には売主のマルエイ及び佐田山と協議したうえで右記載のとおり約定した旨の部分があるが、前記(二)の認定事実に照らすと、売買契約書に記載された譲渡価額は適正な価額を反映したものということはできず、むしろ原告側からの一方的な要求に基づいて記載された形式的なものに過ぎないというべきであり、甲第五号証及び原告代表者本人の供述はいまだ前記(二)の認定を覆えすに足りない。

(2) 原告は、第二土地の外金額を決定するにあたり瑕疵がある点を考慮して減額した旨主張し、原告代表者の供述中には右主張に沿う部分がある。

ところで成立に争いのない甲第七号証、乙第四九号証、原告代表者尋問の結果によると、原告は昭和五一年丸合から、第二の(二)の土地とその上に存する第二建物の一部(第二の(2)の建物。ただし二階部分の一部六三・四九平方メートルを除く。)につき、所有権移転登記抹消登記手続等請求の訴を提起されて敗訴し、右係争部分についての所有権を取得できなかつたこと、原告は売買契約に先き立ち、マルエイらから、右係争部分についてマルエイらと丸合との間ですでに売買の交渉がなされ、決着がついていない旨告げられていたことが認められ、これによれば、原告が所有権を取得できないおそれがあつたのは、第二の(二)の土地だけではなく、第二建物の一部についても同様であつたのであるから、譲渡価額を決定するにあたり、その点を考慮したのであれば、土地についてのみならず、建物についても同じく斟酌されるのが通常であり、原告代表者もそれを認める趣旨の供述をしている。そこで試みに右係争部分がなかつたものとして代金総額四六〇〇万円を固定資産税評価額(前掲乙第四九号証)を基礎に第二の(一)の土地及び第二建物等のうち右係争部分を除いた残部(第二 (1)の建物及び第二の(2)の建物のうち二階部分六三・四九平方メートル)に案分すると、第九表のとおり第二の(一)の土地が三〇八二万円、第二建物等の残部が一五一八万円となり、マルエイらの申告額に近似することになる。

以上によれば、土地に瑕疵のある点を考慮して取得価額を決定した旨の原告代表者の供述によつても前記(二)の認定事実を左右するに足りない。

(3) 原告は、佐田山がマルエイに支払つた立ち退き料五〇〇万円は借地権の対価であるとして、第二土地の借地権割合を基に、同土地の更地価額を九〇九万〇九〇九円であると主張している。

前掲乙第六号証、第八号証によれば、佐田山は第二土地を原告に売り渡す際、マルエイに対し立ち退き料名目で五〇〇万円を支払つたことが認められる。しかし、マルエイとその代表者である佐田山との間で正規の賃貸借契約が締結され、マルエイのために単なる使用貸借権ではなく、賃借権が存在していたかどうかは、これを認めるに足りる的確な資料はなく、仮に賃借権が存在していたとしても、立ち退き料の有無やその額は賃借権の価額を算定する場合の一資料として斟酌されるものに過ぎず、立ち退き料の額が直ちに賃借権価額とされるものではないし、本件ではマルエイの借地権の適正な評価額が五〇〇万円であることを認めるに足りる的確な証拠はない。したがつて、立ち退き料五〇〇万円が適正な借地権価額であることを前提とする原告の主張はこの点においてすでに失当といわざるを得ない。

(4) 原告は佐田山が申告した第二土地の譲渡価額三一〇〇万円は、買換資産の承認申請のため一方的、作為的に設定したものであると主張する。

前掲乙第七号証によれば、佐田山は昭和四九年三月三一日、右土地の譲渡価額を三一〇〇万円、買換資産の取得価額の見積額を三三〇〇万円として、租税特別措置法三七条の規定による買換えの承認を申請したことが認められる。しかし、佐田山が右申請により第二土地の譲渡所得に対する課税を低額に押さえる目的で、作為的に右譲渡価額を設定したことを認めるに足りる証拠はなく、上記認定によれば、右譲渡価額は適正な価額を反映していると認められるので、原告の右主張は理由がない。

(5) 原告代表者尋問の結果により原本の存在とその成立が認められる甲第二六号証によれば、原告は昭和四八年四月二七日、日産火災海上保険相互会社との間で第二建物につき保険金額三〇〇〇万円の火災保険契約を締結したことが認められる。ところで、原告代表者の供述中には右保険会社が第二建物の価額につき三〇〇〇万円の査定をした旨の部分がある。しかし他方で原告代表者の供述中には、原告代表者は保険会社の係員がいつ査定に来たか、査定の際右係員に対し、第二建物の取得価額等につき説明したかどうかについて記憶していない旨の供述部分があり、査定の経緯が明らかでなく、かつ前記認定のとおり、第二建物等の譲渡時の帳簿価額は一四二二万九四〇〇円であつたこと等の事実に照らすと、原告代表者の前記供述部分はたやすく信用できない。

(四)  第二建物等の取得金額一五〇〇万円に対する減価償却費は、原告が採用している償却方法(成立に争いのない乙第四一号証)を適用して計算すると、第一〇表(二)のとおり第一次年度分六七万四六六六円、第二次年度分九五万七九三五円、第三次年度分八八万二一七九円となるから、原告が第二建物等の取得金額に対する減価償却費として申告した金額のうち右各金額を超える部分(第一次年度分四一万〇六六七円、第二次年度分五九万三〇〇三円、第三次年度分五五万九七九五円)は、当該各事業年度の損金に算入することはできず、第一一表の2<4>のとおり申告所得額に加算すべきである。

4被告の主張2(三)について

(一)  原告が昭和五〇年七月二三日藤原から第三物件(営業権が含まれるか否かはさておき)を代金合計五五〇万円で買い受けたこと、同年一一月一日坂本に右土地建物を賃貸したことは当事者間に争いがない。

(二)  そこでまず、原告が第三土地建物とともに買い受け、かつ坂本に一五〇万円で売り渡したのは、第三什器備品かそれともこれを包括する営業権かにつき考察する。

(1) 成立に争いのない乙第一〇号証、証人渡部仁志の証言、これにより真正に成立したと認められる乙第一一号証、第一三号証、証人下森貴代登の証言、これにより真正に成立したと認められる乙第一四号証、第一六号証、弁論の全趣旨によると、藤原は昭和五〇年七月、自ら飲食業を経営する意図で第三物件を向井から代金三五〇万円で買い受けたが、原告からその売渡方を懇請されたので、自ら営業を開始しないまま、前記のとおり同月二三日原告に対し第三物件を売り渡したこと、原告と藤原との間の売買契約書には売買の目的として第三土地、建物、什器備品のみが記載され、営業権の表示がなかつたこと(ただしこの点は当事者間に争いがない。)藤原が提出した所得税確定申告書には第三土地建物の譲渡に関する記載がなされていたが、営業権の譲渡の記載がなかつたこと、原告が坂本に昭和五〇年一一月七日付で交付した売買代金一五〇万円の領収証には「店舗の設備費の代金として」と記載されていたこと(ただしこの点は当事者間に争いがない。)が認められ、原告代表者の供除中、右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) ところで、原告は、飲食業用店舗のうち、その建物外郭を除く内郭造作、付属設備及び什器備品一切を一括して取引する場合は、居抜き権利という一種の営業権の売買として取り扱うのが飲食業界の慣行であり、原告は右権利を買い受け、坂本にそれを売り渡した旨主張している。しかし、

(イ) 法人税法上、営業権とは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を稼得することのできる無形の財産的価値を有する事実関係であると解する。そこで本件についてみるに、前掲各証拠のほか原告代表者尋問の結果によれば、向井は、昭和四八年ころまで第三建物で玉子の販売業を営んでいたが、同年暮に右建物を飲食業用店舗に改造し、昭和四九年初めから右建物内で知人に「酌々」の屋号でスナツクを経営させたものの、開店後間もないころから、店を開いたり開かなかつたりという営業状態であつたこと、向井及びその知人は右飲食業につき所得税や遊興飲食税の申告をしていなかつたこと、原告は右建物を譲り受けるに際し、「酌々」の得意先を紹介してもらわなかつたことが認められる。以上の事実を総合すると、昭和五〇年七月当時、第三建物の店舗の営業権は存在していたものということはできない。

(ロ) 成立に争いのない乙第一二号証、証人角田達朗、同大柄定子の各証言、原告代表者尋問の結果によると、飲食店業界で行われているいわゆる居抜き権利の売買とは、店舗用の建物(又はその一部)を賃借して飲食店を営業している者(飲食テナント)が、同店舗での営業を希望している他の第三者に対する借家権の譲渡(賃借人名義の変更)につき賃貸人による事前の承諾があることを前提として、右第三者に当該店舗内の造作や什器備品等を直ちに営業を開始できる状態のままで一括して譲渡する場合をいい、建物の賃貸借関係を前提としつつ、かつそれとは別個にテナント間で成立する法律関係であることが認められる。しかし、本件では、原告は第三建物を賃借してその中の什器備品を買い受けたのではなく、右建物の所有権を買い受けるとともに、第三什器備品を併せて買い受けたのであるから、原告と藤原との間でいわゆる居抜き権利の売買がなされたということはできないし、また原告と坂本間の売買についても、建物所有者たる原告と坂本との間で建物の賃貸借契約を締結したことに伴つて店舗内の第三什器備品を売り渡したに過ぎないから、いわゆる居抜き権利の売買であるということは到底できない。

したがつて、原告の前記主張は採用できない。

(3) 以上の認定のとおり原告が第三建物とともに、藤原から取得したのは、営業権ではなく第三什器備品であり、原告はこれを代金一五〇万円で坂本に売り渡したものである。

(三)  次に、第三物件の取得価額の内訳につき検討する。

(1) 前掲の乙第一三号証、証人下森貴代登の証言、これにより真正に成立したと認められる乙第一五号証、第二六号証の一ないし四、証人渡部仁志の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、昭和五〇年七月現在における第三什器備品の償却残額は八七万〇七五九円であつたこと、昭和四九年一月一日現在における第三建物の固定資産税評価額は、二六万九八〇〇円であり、また向井は昭和四八年末に右建物について一六五万円の費用をかけて改造している(一六五万円の費用で建物を改造した点は当事者間に争いがない)こと、第三土地の固定資産税評価額は五六万五七六〇円であつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) そこで右の各価額を基準として、売買代金の合計額五五〇万円を第三物件のそれぞれに振り分けると、第三表<4>のとおりとなり、第三什器備品の価額は一四七万九五〇〇円となる。なお、原告は、向井が支出した改造費一六五万円は営業権の価額に加えるべきであると主張するが、改造費の支出は建物の価値の増加として建物の価額に含まれると解すべきであるのみならず、本件では前記のとおり営業権は認められないから、原告の右主張は失当である。

(3) 原告は第三物件の取得価額につき、第三土地が六〇万円、第三建物が四〇万円、営業権が四五〇万円であると主張しているが、前認定のとおり、本件では営業権は存在せず、建物改造費一六五万円は第三建物の価額に含まれること、原告は第三建物を坂本に対し敷金六〇万円、賃料月額六万円の約定で賃貸していたところ(この点は当事者間に争いがない。)、右賃料額に比し、原告主張の建物の価額は極めて低廉であること等に照らすと、原告が右取得価額を決定した根拠として述べるところは、いずれも合理性があるとはいえず、原告の右主張は採用できない。

(四)  被告主張2(三)(2)の事実は当事者間に争いがない。

(五)  以上の認定によれば、営業権売却損三〇〇万円を第三次年度の損金に算入することはできず、第一一表の2<5>のとおり、右事業年度の申告所得額に加算すべきである。なお、第三建物の価額を三〇五万八〇〇〇円と認定したことに伴い、これに対する第三次年度の減価償却費は、原告採用の償却方法(定率法-耐用年数四年、償却率〇・四三八、償却月数五月-成立に争いのない乙第四一号証により認められる。)により計算すると、五五万八〇八五円となるところ、原告は第三建物につき右事業年度の減価償却費として七万三〇〇〇円を計上している(同号証)から、右両者の差額四八万五〇八五円を同表3<1>のとおり、申告所得額から減算するのが相当である。

5  以上の認定によると、第二、第三次年度分の各繰越欠損金損金算入額は第一一表4のとおりとなるということができる。

6  そうすると被告の主張2(四)についての判断をまつまでもなく、第一一表のとおり、すでに第一次年度の欠損金額は裁決後の更正額よりも少なく、第二次、第三次各年度の各所得金額は裁決後の更正額よりも多いことになる。したがつて本件各更正処分は適法であるというべきである。

また右処分を基礎としてなされた本件各賦課決定も適法であるというべきである。

三  よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鹿山春男 裁判官 大戸英樹 裁判官三浦州夫は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 鹿山春男)

第一表(被告主張の課税処分の経過表)

第一次年度分

<省略>

第二次年度分

<省略>

第三次年度分

<省略>

(注) 1 「審査請求」の「年月日」欄は、米子税務署において収受した年月日を記載した。

2 「所得金額」欄の△印は、欠損金額を示す。

3 「税額」欄の△印は、還付金に相当する税額を示す。

第二表(被告主張の第二土地建物の価額の計算内容)

<省略>

第三表(被告主張の第三物件の価額)

<省略>

注1 269,800円(昭和49年1月1日の第三建物の固定資産税評価額)+1,650,000円(昭和48年末に向井が第三建物の改造に要した費用)=1,919,800円を昭和49年1月1日現在の第三建物の価額とし減価償却した価額

第四表(被告主張の第四建物・借地権の取得価額の計算内容

<省略>

<省略>

第五表(被告主張の第四建物の減価償却超過額の計算内容)

<省略>

第六表(被告主張の所得金額の計算内容)

<省略>

第七表(原告主張の第二物件の価額)

<省略>

第八表(被告主張の第二土地建物の価額

<省略>

第九表(当裁判所の説示)

<省略>

第一〇表(被告主張の第二建物、第二付属設備の償却額

<省略>

第一一表(当裁判所の認定にかかる所得金額の計算内容)

<省略>

物件目録

第一(一) 鳥取県米子市朝日町二三番

宅地の一部 二四八・一六平方メートル(七五坪〇七)

(二) 同所二四番地

一棟の建物の表示

木造瓦葺二階建

床面積 一階 二七五・四二平方メートル

二階 二〇一・〇六平方メートル

専有部分の建物の表示

家屋番号米子市朝日町二四番の四

木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階 二九・六一平方メートル

二階 二四・八三平方メートル

(三) 同所同番地

家屋番号八二番二

木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階 九〇・二四平方メートル

二階 六〇・三三平方メートル

(四) 同所同番地

家屋番号八〇番

木造瓦葺平家建居宅

床面積 二四・九九平方メートル

(付属建物)

木造瓦葺二階建居宅

床面積 一階 二九・七五平方メートル

二階 一七・三五平方メートル

第二(一) 同市西倉吉町一三第三

宅地 二五二・一七平方メートル

(二) 同所一三番四

宅地 七八・五四平方メートル

(三) 同所一三第地三、一三番地四

一棟の建物の表示

鉄骨コンクリート造木造鉄板瓦交葺三階建

床面積 一階 二五四・七九平方メートル

二階 二五四・七九平方メートル

三階 一四二・八七平方メートル

専有部分の建物の表示

(1) 家屋番号西倉吉町一三番三

鉄骨コンクリート造木造鉄板瓦交葺三階建店舗倉庫

床面積 一階 二〇九・〇七平方メートル

二階 一四一・三六平方メートル

三階 一四一・三六平方メートル

(2) 家屋番号西倉吉町一三番四

木造瓦葺二階建事務所

床面積 一階 四一・六五平方メートル

二階一〇五・一四平方メートル

第三(一) 同所二九番一一

宅地 二七・六六平方メートル

(二) 同所二九番地一一

家屋番号同所二九番の八

木造瓦葺二階建居宅一棟

床面積 一階 二三・二八平方メートル

二階 二三・二八平方メートル

第四(一)(1) 同市朝日町二八番

宅地 六二八・〇九平方メートル

(2) 同所二九番

宅地 二〇四・一三平方メートル

(3) 右(1)(2)の宅地のうち二六一・七三平方メートル

(二) 同所二八番地、二九番地

(1) 家屋番号二八番の建物

床面積 七一・四九平方メートル

(2) 家屋番号二八番三の建物

床面積 二四・一七平方メートル

(3) 家屋番号二九番三の建物

床面積 二四・七四平方メートル

(4) 家屋番号三五番二の建物

床面積 八〇・三九平方メートル

(5) (家屋番号補充二一)の建物

床面積 一六・六九平方メートル

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